ブレンパワード9,10話感想

9話「ジョナサンの刃」10話「プレートの誘惑」

ジョナサンとアノーアの話と言ってしまいたいですがそう単純なものでもないですよねやはり。前回感想を8話で切ってしまったのですが8話からの9話,10話という感じで、そのあたりぶった切った話し方はちょっとできないかなと思いながら観ておりました。今回の感想も9,10話という切り方はしましたが、この話で研作博士とクィンシィが次の動きの予兆を見せますが、予兆だけであって実際に動きがあるのは次の話以降であったりします。とはいっても1話ごとに話すにせよ複数話まとめるにせよ避けられない事なのでここで切ってしまいます。

ちなみに11,12話は一度だけ鑑賞しました。

 

 

何でもない話

グランチャーの墓による影を見ると昼頃なのでしょうか、迎え入れるノヴィスクルー総員総呆れの光り輝くクルーザーに乗って現れたのはアラブ経済界の重鎮ミスター・モハマド。初見時、いえ訂正しましょう2度目の鑑賞時、彼の乗る船が十字架を掲げている様に見えました。勿論初見時も同じようには見えていましたし意識もしていたはずです。しかしモハマド氏がアラブ人という情報が頭に入っている状態では、キリスト教宗教的象徴である十字架を掲げているということに「お?」と思うところがあるわけです。そんな時に別アングルからのカットが挟まれ私のONになりかけた集中力は次の瞬間には途切れることとなります。十字架を掲げていたというわけではなくマストのようなものが正面から十字架っぽく見えただけというオチでした。狙った描写でしょうけど。

 

ミスター・モハマドは「オルファンが動き出す危機を我々は深刻に受け止めているのです。中東各国もこの未曽有の危機を乗り越えるために」と究極の指揮権を譲ってくれないかと話を持ち出します。要するに、オルファン浮上による危機の回避のために箱舟としてノヴィスを欲しているというところでしょうか。8話にてゲイブリッジ司令は日本政府や軍の上層部を(軍と呼んだのはアノーアですが、流石に自衛隊のままではないのでしょうかね?それともニュアンスの問題でしょうか)「オルファンが浮上した時には大津波を避けるためにノヴィス・ノアに乗っていたいだけなのだ」と評していましたが、今回のモハマド氏もそれと同様なのだと思われます。8話のこのやり取りがあったからそういった目的でのオルファンの運用を想定した商談なのだと理解できるわけですねー。

 

アノーア艦長へのブーメラン

クマゾーにケーキをぶちまけられたことで正体を明かさざるを得なくなったジョナサンは場の全員を人質とし、ノヴィスの"究極の指揮権"を持ったとモハマド氏に対するからかいも交えて宣言します。ある人が先ほど使っていた言葉を自分が使える状況になった時、同じ言葉を使いたくなるというあるあるです。ありますよね!?

そんなジョナサンはアノーアの息子でこれまた非常にこじれた関係...というのは語弊があってアノーアの方には関係の悪化が全く感じ取れていません。そして

「あなたは大変聡明な方の遺伝子をうけついでいるのよ」と語りますがそれは男との愛情を育むことを面倒がったということだと、ジョナサンは天才の遺伝子を持つ自分がこうした気性で馬鹿げた行動を取っていると笑って見せますが

「それは私の遺伝子に問題があったからよ」

と歪んだ息子を前にしても主張が変わることはありません。普通に考えるとここで直ちに自分の考え(それも天才の精子を金で買ってシングルマザーになったくらいですから信念と呼んでしまっても差し支えないでしょう)を変えるなどということはそうそうできるものではありませんし不自然だとは思いません。が、そんな言葉を聞けば当然息子ジョナサンはキレます。

 

直子の話。話は逸れます

そこに直子がそうやって憎まれ口をたたけるのも命を与えてくれたお母さんがいるからでしょうと割って入り、ゲイブリッジ司令とクマゾーも前に出てきてジョナサンが複数人に責められるといった雰囲気になります。ジョナサンは苛立ちます。しかし、最初に割って入った直子の言葉はただのおばあちゃんの典型的な説教以上の意味を持っているようには思えないということで物凄く違和感を感じました。10話でも勇に対して、チームワークを説くゲイブリッジ司令の横から「やってみなくては分からないということは世の中にはいっぱいあるでしょ」と語るという場面がありました。

 

この後「年甲斐の無い恋をしてんだ」という勇の言葉にゲイブリッジ司令が怒りを隠さなかったのは別の話ですが、5話でも直子が自分たちの仲をふしだらと表現したことに対しても不快感を顕わにしていたりしますね。分かってくれている若者を演じて見せなければゲイブリッジ司令にそのうち消されますよきっと。

 

まぁ冗談はさておき、少し勇の肩を持つような言い方をすれば直子はオルファンのトップ研究者である翠を育てた張本人であり、この事態に関して部外者なわけがありません。にも関わらず彼女の言葉はどこにでもいるおばあちゃんがどこの誰に対してでも使えそうなものばかりで、自分の周りの事態や目の前の現象を消化した上での発言とは思えません。8話のカナンと直子の会話において直子の立場や価値観はフラットだと感じたという話はしたと思いますが、それは人(勇など)によってはかなり悪質な公平さ・無関心さとも言えるのではないだろうかと感じました。

 

話を戻します

 

ここでアノーアの過去発言などを振り返ってみたいと思います

・件のクリスマスカードを目にやりながら「親子の絆がそれで断ち切れるものでしょうか」(5話)

・カナンの説得を試みる勇「リクレイマーの連中は遺伝子や記憶が全てと言う」

・勇とカナンに対し「私には危険分子にしか見えません」(6話)

・グランチャーとブレンパワードの特性について語る勇に対して「自分たちの生みの親であるオルファンを裏切ることになってもですか?」(8話)

アノーア艦長という人は、研究者と実験体という親子関係であっても、離れていようとも、クリスマス休暇を取ることをせずとも、クリスマスプレゼントを贈ることをせずとも親子の愛情というものは常に保たれているという考えと、先ほどの発言から分かるように遺伝子への信心と、[リクレイマー⇒危険分子]という単純かつ明快な思考回路を併せ持った人物であったことが分かります。これらは彼女の中でも殆どブレることの無かったほぼ揺るぎない価値観でしょう。殆ど...ほぼ...。まぁ、前の2つに対する彼女の信心は非常に強いものであったと断言しても問題はないでしょう。

しかしお分かりのように信じていた親子の絆のもとジョナサンはかのように仕上がり、どちらかというと彼女の信念はリクレイマーの主張と同種のものであり、仕上がった愛する息子ジョナサンはリクレイマーであった。

という何ともひどいブーメラン祭りです。選民的なリクレイマーの主張をアノーアがどの程度把握しているかは分かりませんし、実際彼女に与えたダメージは1つ目と3つ目のブーメランがほぼ全てでしょう。

ちなみにジョナサンは母の遺伝子信仰に従うリクレイマーとなり母親の気を引きたかったという一面があるのかもしれないですね。

 

親子の絆を信じる比瑪は

孤児院育ちで血縁のある親を知らない(かどうかは本当は分からないのですが)けれども親はたくさんおり血縁がなくとも親子の愛情は育めるものだと思っている比瑪。

「おばあちゃんのせいでお母さんが優しくしてくれなかったなんてことないよ」(8話)

「私にはたくさんのお母さんがいたもの」(8話)

「人それぞれ表現が違うのよ」(8話)

「でも勇のお父さんとお母さんは勇を必要とした。親に必要とされたってのは良いことだよ」(8話)

「お母さんだったら憎むわけないでしょ」(9話)

「そうよね、アノーア艦長みたいなお母さんだったら何も不満はないよね」(9話カナン)

「一緒にいれば親子の愛情なんて育てられるじゃない」(9話)

 

一つノイズを混ぜていますがお気になさらず。要約すると「人それぞれ表現の仕方は違うけど一緒にいれば愛情は育めるものだよ、私はたくさんの親と多様な表現を見てきたから分かる」ということですが、個人的な感想を言ってしまえば、孤児院にいる時点でそこの親が愛情を持っているということはかなり確かに保証されているのではないかな?そういう雰囲気のある孤児院だったというのならば特に!といった調子になるのですが画面の中の比瑪ちゃんが反応してくれるわけではありません。別に反論したいわけでもないですけど。また彼女は、「一緒にいれば」愛情はいくらでも育めるとも言いましたがジョナサンの場合は一緒にいることが達成されなかったことが確執の根本です。おそらくそういうケースも彼女の中では考え付かないものなのだろうなと感じました。

ノイズを混ぜておいて忘れそうになりましたが、先に引用した台詞のうちカナンのもの含めて9話のものは一連の会話です。最初カナンは比瑪の調子に合わせているのかなと思いましたが、どうやらそれだけではないかもしれない。両親のいないカナンはやはりこれも8話で軋轢があっても親のいる勇が羨ましかったと語っていましたし少なくともこの段階ではアノーアがそもそもジョナサンと時間を共有してこなかったということも知らないはずなので、正直なところなのでしょう。

 

ちなみに2人がそのような親子観を持っているという事実を受容し、話を聞きながらわざわざ突っ込んだり反論したりしない勇が好きですね。本来コミュニケーションや人と人との関わり合いにおける基本事項のはずなのですが案外難しいことで、私もできているかと問われれば全く自信はありません。

 

おっぱいが欲しい男

8話で「自分たちの生みの親であるオルファンを裏切ることになってもですか?」と問われた勇は「親だからって子供に同じ考えを押し付けることはできないでしょ!」と声を荒げていました。親から逃げ出した勇と親子の絆を信じていたアノーアという字面が既に両者の親子観の一致を否定しているのですが、口論になったのは10話が初めてというわけではなかったのです。

自室に籠っていたの変わり果てたアノーアの第一声は勇に対するリクレイマー蔑視の言葉、そしてジョナサンはリクレイマーに洗脳されたのだと続けます。「貴女がジョナサンを捨てたから」という言葉に対しては「捨てた覚えはありません」という応答で、彼女の言葉は引きこもる前と何も変わったところはない...というより引きこもっている間は我を失った状態で何も吐き出せず何も考えることもできないという状態だったのでしょうか。心理的圧迫の回避のためか自身が直面した事実を否定し続ける彼女。

ところで、貴女がジョナサンを捨てたという言葉のチョイスはどう考えても客観的なものではありません。自分が愛情を授けてもらえなかったという思いからの怒りを、同じように子供への愛情伝達に失敗したアノーアにぶつけます。ちなみに「ああいうジョナサンにしたのは貴女だった」と「翠を育てたのは直子だ」という主張は同種のもので、彼は子供を育てた親の責任に対して敏感なのでしょうね(ここでは触れ合わないことも広義的に育てると呼んでいます)。このやりとりを見てしまった私が言いたいことは一つだけです。

 

ママのおっぱいが欲しいのはジョナサン・グレンだけでなく伊佐未勇もである

 

アノーアはアイリーンの下へ連れられ、徐々に事態の受け入れができてきた様子になります。暗い場所で内に籠るよりも、吐き出すなり明るい場所で人と話すなりした方が安定するのでしょうか。そこまで心理的に追い詰められることはそうありませんから何となく分かる気がするという言い方しかできませんねー。直後に現場復帰も果たし安定したかに思えた艦長ではありましたが、末路は見ての通りでした。

 

最後に

同じエレベータだと思いますが平常時とジョナサン襲来の際のアノーアによる艦内制御時、ブレンパワード用の取っ手までつけられているんですねー。

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